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の切磋琢磨は、息子にとって非常によい刺激になったはずです。
模擬テストの結果は、なかなかよくならず本人も焦っていたようです。二学期に入って少しずつ上向いてきたと喜んだ途端、とんでもないできごとに遭遇してしまいました。一足先に大学に合格したガールフレンドが、交通事故で入院し間もなく息を引きとったのです。お互いを励まし合っていたよい友だちでした。
息子は一番大事な時期に受けたショックから立ち直れず、神経を病んで新潟に戻って来ました。大学受験は放棄せざるを得ませんでしたし、親はただ黙って見守るしかありませんでした。
環境を変えて三ヵ月ほど休養の後、彼は突然、「指が動いて仕方ない」と、変わったことをいい出したのです。そして、手を使う仕事を探し始めました。迷った末に、確かな味覚を持っている息子は和食の調理師になる決心をしました。
「もう、ふり返ることはないよ」と、きっぱりといい切った息子のもとへ、思いがけず予備校から最後の全国模擬テストの結果が送られて来ました。息子が望んだ大学には、すべて上位の成績で入れる数字が並んでいるのを見たとき、私は不覚にも涙が頬を伝わるのをどうすることもできませんでした。彼は今、二十四歳です。、新潟でも歴史のある名の通ったホテルで働いています。自分の力で獲得して来た職場です。希望した和食の部門で生き生きと働いています。
「僕の作った料理を、一人でも多くのお客さまにおいしいといって食べてもらえる日が来る

 

 

 

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